見送って
ハアハアハアハア……
駆け込んできた女性は、
髪をかきあげて、乱れた呼吸を、
整えようとしていた。
四角い密室の中、対角線の端と端に、
ぼくらは、二人きり、立つていた。
乱れた女性の息だけが、
聞こえる、エレベーターで、
ぼくは、視線を上げ、
なるべく、姿を見ないようにした。
一階から二階、改札へ向かう、
ほんの数秒が、長かった。
扉が開くと、女性は、ぼくに、
頭を下げて、走り出した。
どうして……
見覚えのあるような、無いような、
目鼻立ちの整った顔が見えた。
そう言えば、会社ですれ違ったか。
そうか……月末の手伝い、
派遣の人だ。
気づかないぼくは、
気づかれない人から見られていた。
女性は、慌てていたらしく、
到着した電車に乗って行った。
お疲れ様……ぼくは、ホームで、
気づかれない人を見送っていた。
駆け込んできた女性は、
髪をかきあげて、乱れた呼吸を、
整えようとしていた。
四角い密室の中、対角線の端と端に、
ぼくらは、二人きり、立つていた。
乱れた女性の息だけが、
聞こえる、エレベーターで、
ぼくは、視線を上げ、
なるべく、姿を見ないようにした。
一階から二階、改札へ向かう、
ほんの数秒が、長かった。
扉が開くと、女性は、ぼくに、
頭を下げて、走り出した。
どうして……
見覚えのあるような、無いような、
目鼻立ちの整った顔が見えた。
そう言えば、会社ですれ違ったか。
そうか……月末の手伝い、
派遣の人だ。
気づかないぼくは、
気づかれない人から見られていた。
女性は、慌てていたらしく、
到着した電車に乗って行った。
お疲れ様……ぼくは、ホームで、
気づかれない人を見送っていた。
どうもしないよ
目尻に皺ができて、歯が見えて、
鼻が横に広がってきた。
顔の筋肉が、引きつるみたい。
なんとも間抜けで、
なんとも怪しい人相になる。
こんなはずじゃなくて、
もっと、ドラマに出てくるみたいな、
さりげない笑顔になるはずだ。
このままじゃ、
笑いかけても、引かれるだけだ。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、引かれていく、
そんな気がする。
いや、ちがーう、そうじゃないだろ。
「あの……どうされたんですか?」
「えっ……ああ、いや、ちょっと、
目に埃が入ってさ」
「目薬、ありますよ」
「ああ、いい、いい、大丈夫、大丈夫」
慌てて、鏡の前から、部屋に戻った。
机には、仕事が溜まっていた。
電話が鳴り、メールが入り、
請求書の束が重なっていく。
笑顔を、取り戻そう。
腹から笑えることを集めよう。
間抜けでも、怪しくても、
とにかく、笑顔になるのだ。
とにかく、ニッ、でいくのだ。
ニッ、ニッ、ニッ、ニッ……
「あの……ほんとに、
どうされたんですか?」
鼻が横に広がってきた。
顔の筋肉が、引きつるみたい。
なんとも間抜けで、
なんとも怪しい人相になる。
こんなはずじゃなくて、
もっと、ドラマに出てくるみたいな、
さりげない笑顔になるはずだ。
このままじゃ、
笑いかけても、引かれるだけだ。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、引かれていく、
そんな気がする。
いや、ちがーう、そうじゃないだろ。
「あの……どうされたんですか?」
「えっ……ああ、いや、ちょっと、
目に埃が入ってさ」
「目薬、ありますよ」
「ああ、いい、いい、大丈夫、大丈夫」
慌てて、鏡の前から、部屋に戻った。
机には、仕事が溜まっていた。
電話が鳴り、メールが入り、
請求書の束が重なっていく。
笑顔を、取り戻そう。
腹から笑えることを集めよう。
間抜けでも、怪しくても、
とにかく、笑顔になるのだ。
とにかく、ニッ、でいくのだ。
ニッ、ニッ、ニッ、ニッ……
「あの……ほんとに、
どうされたんですか?」
悲しい日々から
言いたいことは山のようにある。
でも、何も言わないでいる。
どれだけ傷ついていても、
ずっと、付き合っていかないと……
ボロボロになっても、
ずっと、暮らしていかないと……
幻想でしかない。
この日々は幻想でしかない。
笑え。笑うしかない。
笑うしかほかにない。
悲しい日々という歌がある。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、離れていく気がする。
笑うしかない日々は、
悲しい日々なんじゃないかな。
ぼくは、ずっと、そう思ってきた。
だけど、今は違う。
何がどう違うのか……
説明できるほどではないけど、
今は、違う気がする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、離れていく気もする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、もっと、たくさんの、
俺たちに、なっていく気もする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、もう少し、ゆっくりと、
歩いていける気もする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、色々な、俺たちに、
なっていける、そんな気がする。
でも、何も言わないでいる。
どれだけ傷ついていても、
ずっと、付き合っていかないと……
ボロボロになっても、
ずっと、暮らしていかないと……
幻想でしかない。
この日々は幻想でしかない。
笑え。笑うしかない。
笑うしかほかにない。
悲しい日々という歌がある。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、離れていく気がする。
笑うしかない日々は、
悲しい日々なんじゃないかな。
ぼくは、ずっと、そう思ってきた。
だけど、今は違う。
何がどう違うのか……
説明できるほどではないけど、
今は、違う気がする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、離れていく気もする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、もっと、たくさんの、
俺たちに、なっていく気もする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、もう少し、ゆっくりと、
歩いていける気もする。
笑い合えば、笑い合うほど、
俺たちは、色々な、俺たちに、
なっていける、そんな気がする。
人伝に
住宅街にあるその店の前には、
いつも路上駐車の列ができている。
美味しくて評判だから、
若い主婦らが、頻繁に訪れ、
わざわざ、東京の方から、
来る人もいるという。
何気ないけど、
人伝に、名が知られていくことがいい。
そんなことに、すごく憧れる。
ケーキ店の前を通ると、
ぼくは、いつも、思う。
十人が良しとして、
そこから、人伝に広がるのと、
広がらないのと、何が違うのかと。
ぼくも、少しぐらいは、
……人伝に生きていたい。
いつも路上駐車の列ができている。
美味しくて評判だから、
若い主婦らが、頻繁に訪れ、
わざわざ、東京の方から、
来る人もいるという。
何気ないけど、
人伝に、名が知られていくことがいい。
そんなことに、すごく憧れる。
ケーキ店の前を通ると、
ぼくは、いつも、思う。
十人が良しとして、
そこから、人伝に広がるのと、
広がらないのと、何が違うのかと。
ぼくも、少しぐらいは、
……人伝に生きていたい。
諭され
人の影に見えたのは、
日差しの当たる、花瓶の影で、
霞む目に、今にも動きそうに
見えていた。
苦い味が、鼻腔に入り込んでいる。
さっき、飲んだ薬の味がしている。
首の力を抜き、枕に頭を沈めた。
そのまま、眠りに落ちようとすると、
微かに人の声がした。
子供の笑う声も混じっている。
窓の外かららしい。
隣にある公園で、
誰かが遊んでいるようだ。
やっぱり、起きよう。
首に力を入れて、起き上がってみた。
発熱に慣れたとしても、
寝心地は、決してよくならない。
頭の痛みは、薬で、消えていた。
ただ、胸が苦しい。
花瓶の向こう、日差しの当たる壁が、
波を打っている。
外から聞こえていた、子供の笑い声が、
裏の庭の向こうを通り過ぎ、
遠ざかっていった。
もう、お昼頃か。
休もうか……でも、休めない。
やっぱり、仕事に行こう。
花瓶の影と、子供の笑い声に諭され、
ゆっくりとした出勤になった。
風邪をひいてしまった。
日差しの当たる、花瓶の影で、
霞む目に、今にも動きそうに
見えていた。
苦い味が、鼻腔に入り込んでいる。
さっき、飲んだ薬の味がしている。
首の力を抜き、枕に頭を沈めた。
そのまま、眠りに落ちようとすると、
微かに人の声がした。
子供の笑う声も混じっている。
窓の外かららしい。
隣にある公園で、
誰かが遊んでいるようだ。
やっぱり、起きよう。
首に力を入れて、起き上がってみた。
発熱に慣れたとしても、
寝心地は、決してよくならない。
頭の痛みは、薬で、消えていた。
ただ、胸が苦しい。
花瓶の向こう、日差しの当たる壁が、
波を打っている。
外から聞こえていた、子供の笑い声が、
裏の庭の向こうを通り過ぎ、
遠ざかっていった。
もう、お昼頃か。
休もうか……でも、休めない。
やっぱり、仕事に行こう。
花瓶の影と、子供の笑い声に諭され、
ゆっくりとした出勤になった。
風邪をひいてしまった。
世界の朝
どれだけ願いが叶っても、
最後に一つ、叶わなければ、
人は、満足に入れない。
どれだけ満足に入れても、
最後に一つ、恐れが生まれたら、
人は、幸せに入れない。
幸せに入りたくて、
恐れから、遠ざかりたくて、
人は、強くて、優しい世界を
探し続けている。
それが何にせよ、
宇宙の摂理に反するものを手放し、
合うものを受け入れられたらいい。
そうするより他に、
皆が、幸せに入れるようには、
恐れはなくならないし、
無くなったように見えても、
自分の恐れが、誰かに移った
だけのこともあるのだから。
最後に一つ、叶わなければ、
人は、満足に入れない。
どれだけ満足に入れても、
最後に一つ、恐れが生まれたら、
人は、幸せに入れない。
幸せに入りたくて、
恐れから、遠ざかりたくて、
人は、強くて、優しい世界を
探し続けている。
それが何にせよ、
宇宙の摂理に反するものを手放し、
合うものを受け入れられたらいい。
そうするより他に、
皆が、幸せに入れるようには、
恐れはなくならないし、
無くなったように見えても、
自分の恐れが、誰かに移った
だけのこともあるのだから。
生まれ出でて
時に、生きることに疲れて、
気持ちが沈む時がある。
願っても、願っても叶わず、
笑っても、笑っても受け止められず、
帰り着けない時がある。
必死になって、
生まれ出でたときのことを、
思い出せたら、
強い自分に、気づけるのに。
自分でやり遂げた記憶が、
あればあるほど、
人は、強く、優しくなれる。
誕生日を祝うのは、
生まれい出た記憶を取り戻し、
やり遂げだ記憶を抱きしめて、
今一度、強く、優しくなる
ためなんだろう。
気持ちが沈む時がある。
願っても、願っても叶わず、
笑っても、笑っても受け止められず、
帰り着けない時がある。
必死になって、
生まれ出でたときのことを、
思い出せたら、
強い自分に、気づけるのに。
自分でやり遂げた記憶が、
あればあるほど、
人は、強く、優しくなれる。
誕生日を祝うのは、
生まれい出た記憶を取り戻し、
やり遂げだ記憶を抱きしめて、
今一度、強く、優しくなる
ためなんだろう。
誕生日って

生まれる時、大変だったんだ。なかなか、出てこなくてね。
だから、誕生日って、お母さんを労うべきなんじゃないかな。
プレゼント、貰ったら、お母さんにも、何か渡してあげようよ。
みんなが、お母さんを労えたら、お母さん、もっと優しくなるかな。
ケーキ、今度は、お母さんの好きなケーキにしよう。飲み物も、甘くして。
……うん、わかった。お母さんの好きなのにする。フルーツいっぱいのにする。
そうか。ありがとう。いいか。誕生日は、そういう日だということを、忘れるな。
波を寄せ
いや、それだけじゃない。
ふとした気持ちが、
どんなことか、わからなくて、
行ったり、来たりする。
思春期に限ったことじゃない。
大人になっても、年をとっても、
行ったり、来たりはある。
たぶん、誰にだってある。
辻褄の合わない毎日を、
ただ、並べるだけには、
なりたくない。
行ったり、来たりのこの波を、
逢いたい人に寄せてみたい。
森の向こうの湖で、
優しく、柔らかく、思い出深く。
ふとした気持ちが、
どんなことか、わからなくて、
行ったり、来たりする。
思春期に限ったことじゃない。
大人になっても、年をとっても、
行ったり、来たりはある。
たぶん、誰にだってある。
辻褄の合わない毎日を、
ただ、並べるだけには、
なりたくない。
行ったり、来たりのこの波を、
逢いたい人に寄せてみたい。
森の向こうの湖で、
優しく、柔らかく、思い出深く。
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置き手紙…のようなものです。
by konnakanjiyakedo
コメントとかのこと
コメントをいただきながら、返事を書いていなかったり、ファンの申請をいただきながら、そのままだったり、ごめんなさい。今日は久しぶりに、パソコンをさわってます。やっと、お気に入り登録もできました。やっぱり、大きな画面でみると、どの記事もきれいで、いいなって思います。
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